福岡高等裁判所 昭和26年(う)2049号 判決
本件ビラの文言を通読すると単に吉田内閣の政策に対する論評に止らず連合国に対する破壊的批評の論議をも含んでいること極めて明白である。従つて論旨は理由がない。
第二、弁護人の論旨第二に付いて。
(イ) 自治体警察署の清掃婦、給仕もまた地方公務員法第三十七条に所謂職員であること同法の解釈上疑を容れないしかしながら職権で調査すると、原判決には次の過誤があり右は判決に影響あること明であるからこの点について破棄を免れない。
一、言論及新聞の自由に関する覚書第三項は聯合国に対する破壊的批評である限り公式に発表されたものであると否とに拘らず、論議を許さない趣旨であるのに原判決は公式に発表されないものに限ると解している。
二、原判決は被告人が本件ビラを警察書記(雇)、清掃婦、給仕に対し配付することによつて同人等の怠業行為をもあおつた旨認定しているが、しかしながら同ビラはその文言自体によつて明白なように警備、捜査、特高等比較的高級な警察事務に従事する幹部を対象とし職務の怠業をそそのかしているものに過ぎないものであるから警察書記、清掃婦、給仕等に右ビラを配付したことに因つて同時に同人等に対し同人等の職務の怠業をあおつたものとは到底解し得ない。
(ロ)三、原判決は、本件ビラの配付を受けた人数に相当する個数の論議罪及怠業をあおつた罪の成立を認め併合罪の規定を適用しているが、右両罪の性質に鑑みるときは受配人員の単複に拘らず苟も社会通念上同一時に行われたものと認め得る限り常に夫々単純一罪の成立あるに過ぎないものと解するを相当とする。
よつて他の論旨に対する判断を省略し、刑事訴訟法第三百九十七条第四百条但書に則り原判決を破棄し、次の通り自判する。
被告人四名は孰れも日本共産党員であるが共謀の上、昭和二十六年三月六日午后四時五十分頃から同五時二十分頃迄の間唐津市大名小路所在の国家地方警察東松浦地区警察署と唐津市警察署共通の西側横裏の出入口の掲示板附近において原判決末尾に記載の如き内容の全国警察斡部諸君に訴うと題するビラ各一枚宛を
(一) 国家公務員である東松浦地区警察署勤務警部大西又喜、同巡査部長中島正雄
(二) 地方公務員である唐津市警察署勤務巡査部長川原源、同小田綱雄、同梶山敏雄、同巡査糸山幸八、同永松武次、同小柳一男、同辻兵次、同江頭二郎、同江頭信雄、同松尾政利、同森正市、同外尾兼利
(三) 右地区警察署勤務警察書記宮崎早子、右市警察署勤務雇(警察書記)市原登美恵、同清掃婦古賀早苗、同渡辺福代、同給仕桶口ひろ子
に配付し、以て一面連合国に対する破壊的批評を論議し因て占領目的に有害なる行為をなすと共に他面右(一)(二)の各公務員に対し夫々政府又は公共団体の機関(唐津市警察署)の活動能率を低下させる怠業的行為をそそのかしたものである。
右の事実は原判示に挙示してあると同一の証拠を綜合して之を認める。
法律に照らすと、被告人等の判示所為中占領目的に有害な行為をした点は刑法第六十条占領目的阻害行為処罰令第一条第二条第一項一九四五年九月十日言論及新聞の自由に関する覚書第三項に、国家公務員に対し怠業行為をそそのかした点は刑法第六十条国家公務員法第九十八条第五項第百十条第十七号に、地方公務員に対し怠業行為をそそのかした点は刑法第六十条地方公務員法第三十七条第一項第六十一条第四号に夫々該当するところ以上は総て一個の行為であつて数個の罪名に触れる場合であるから刑法第五十四条第一項前段第十条に則り最も重い占領目的阻害行為処罰令違反罪の刑に従い所定刑中有期懲役刑を選択し、該刑期範囲内で被告人等を夫々懲役八月に処し、同法第二十一条を適用し被告人西川、谷口に対しては原審の未決勾留日数中各三十日を夫々右本刑に算入し、原審の訴訟費用に付刑事訴訟法第百八十一条第一項第百八十二条を適用する。